ぐでぐでブログ〜留学、英語、心理学〜

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論文の感想ーStructural discrimination toward publications from non-WEIRD countries

Kahalon et al. (2021)の"Mentioning the Sample’s Country in the Article’s Title Leads to Bias in Research Evaluation"を読んだので、そのまとめを備忘録として書いておきます。

 

論文はこちらから読めます:

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/19485506211024036

 

まず問題として、心理学の論文は参加者や実験場所がWEIRDな国に偏っている現状があります。

このWEIRDというのは

  • Western
  • Educated
  • Industrialized
  • Rich
  • Democratic

の頭文字をとったもので、例としてよく挙げられるのは

アメリカの大学生の参加者です。

 

心理学のWEIRDサンプルへの偏り具合がよくわかるインフォグラフィックがこちらです:

f:id:jpnusagirl:20210715134522p:plain

American Psychologyより拝借

 

バックグラウンドはここまでにします。

で、Kahalon et al. が何を危惧しているかというと、

WEIRDな国からの論文の方がそれ以外の国をサンプルにした論文より

結果のgeneralizability(一般化できる可能性)が高いと

認識されているのではないか、そしてそのバイアスから

non-WEIRDな国の論文が過小評価されているのではないか、ということです。

 

実際Kahalon et al.が調べたところ、

(ちなみに色んな定義方法があるなかで、この論文内ではWEIRD country = アメリカです)

  • WEIRD coutnryであるアメリカから出された論文は、その他の国であるnon-WEIRD countriesに比べてタイトルやアブストラクトに国名を書いていない(ex. attitudes toward immigrants among American adolecentsではなく、attitudes toward immigrants among adolecents)
  • WEIRD countryから出された論文はタイトルorアブストに国名を出すこと/出さないことによる引用数への影響は無いが、non-WEIRD countriesの場合は国名を出すことが少ない引用数と関係がある

 

そうです。

 

アメリカ以外の国での心理学研究者は困ってしまいますね。

だってアメリカ人以外のサンプルを使った研究だと

  • 文化心理学などアメリカ以外の文化を取り上げることがむしろメリットになる可能性があるから研究対象の国を前面に押し出したい
  • でもnon-WEIRD国を使った研究の全てが比較研究をメインテーマにしているわけではない
  • かといってWEIRD psychologyの流れに身を任せてnon-WEIRDの国名をタイトル/アブストで伏せたら、心理学研究のWEIRD/non-WEIRDの区別、差別からの脱却にあまり貢献できない

というジレンマが生じると思うからです。

 

Kahalon et al.の研究には続きがありますが、

力尽きたのでここまでにします。

 

自分の思いとしては、

人々の心理プロセスに関しては文化による影響が大きいものと

比較的普遍的なものと様々です。

なので普遍的だと思われる心理プロセスに関する研究が

たまたま(?)アメリカで多く行われている場合は

そちらを参照しても問題ないと思います。

ただ文化による影響が大きかったり、

そもそも文化の影響の度合いがよくわからない場合は、

自分が興味を持っている研究テーマに合う論文を読んだり

(例えば比較研究の中でもアメリカvs.他の国に固執せずに

他の国vs.国の選択肢を考えるとか)

研究が行われた国がどこかに縛られずに

論文を参照していけたら良いなと思います。